男性は知らないほうがいい話

先日浴衣のことをぐだぐだと書いていたら「で、実際自分の納得の行く浴衣の着方ってどんなのな訳」と聞かれた。


ええと先に断っておくと、浴衣が着られるようになってこの方納得がいくような着こなしが出来たためしは無い。が「まあ今日のところはこの辺で外に出ても良いんじゃないか」という自分的な判断基準のようなものが有り、それをクリアしてから出かけるようにしているのだけは確かだ。

ついでに言うと、その個人的な基準をクリアしている限り「ちょっとあなた、浴衣変よ」などと知らないオバサンに突然手を出されたりしたことはないので、浴衣を着て外を歩くのが実は不安である、という人の何らかの指針になれば幸いであると思って記しておくことにする。



ただしその前に、世の男性陣に断っておく。


街歩きの浴衣美人と、脱がせた時の色気というのは、玄人でないかぎりは反比例すると思って頂きたい。
私のこれから書く手法は、街を歩いている時には「ごくごく一般的浴衣お嬢さん(要は年に1回ぐらいしか浴衣を着ないような)」よりは浴衣美人度高めにするが、脱がせた時の色気は半減どころかむしろゼロ、いやマイナス、それよりももはや幻滅レベルにまで持っていくと言っても過言ではない。



もし貴方が、浴衣美人を連れてこれ見よがしに街を歩きたいのであれば、その日はイベントごとが終わったら「自分の目の届かないところ」で、脱いで頂き、ついでに一人でお風呂にも入って頂き、出来れば長時間入って頂き、そしてさらにはシャワーよりは湯船に浸かるのがお薦めであり、そのあとに見事対面するという手順を踏んでいただきたい。まかり間違っても、興奮冷めやらぬまま浴衣を自分の手で脱がせてはいけない。


はっきり言って、つるの恩返しよりも仰天することは確かだと思う。


で、もし貴方が「どうしても浴衣を脱がせるところから楽しみたい」というのであれば、共に街を歩くのはあきらめたほうがいいと思う。室内でのみお楽しみいただきたい。あるいは、街中でひどくしどけない、といえば聞こえは良いがはっきり言って「だらしないとしか言いようが無い」状態の浴衣の女の子を連れて歩くことをよしとするか、まあどちらかである。



という訳で、これから書くことは世の男性陣の浴衣女性像を幻滅させることにもつながるので、知りたくない方はここから先は読まないことをお薦めする。で、女性陣に関しては「駄目!絶対見ちゃ駄目!」と断固拒否する力強さを、浴衣の着付けを覚えると同時に見につけることをお薦めする。




で、前置きが長くなったが「街中で(比較的)綺麗に見える浴衣姿実現の為の小技講座」というのが本題である。


最初に断っておくが、浴衣の着付け自体から語りだすととんでもないことになるので「一応自分では着られる」「自信はないが着方は知っていると思う」以上の方限定とする。




【1】前あわせについて
洋服は女性と男性で前のあわせが違うが、和服は男女同じである。存在するのは生きているか死んでいるかの差である。つまり、あわせ方を間違えれば棺おけの中に寝ている人と同じになる。これを間違えると、見知らぬオバサンがものすごい形相ですっ飛んでくる可能性があるので本当に気をつけたい。
日本文化は、右利き文化である。刀の差し方もそうだし、伝統芸能系のお作法もすべて右利きがやりやすいようになっている。当然、和服も右利きに良いつくりになっている。故に和服のあわせというのは「右手が懐に入りやすい」状態が正しいので、左側の布地を上に重ねる様にあわせるのである。ということを肝に銘じ、浴衣を着る時に迷わないようにしていただきたい。

余談だが、死人と同じあわせ方を「左前になっている」と呼ぶことがある。この「左前」の「前」というのは「さき=先」という意味の「前」である。前に出ている、という意味ではない。よって「着物を合わせるときに『さき』にあわせる」ので、「左前」というのは「左を先にあわせる=右の布地が上に重なる」ということなのである。「死人は左前だから、とすると右の布地が上?」と混乱してしまいがちであるが、「前」の意味が違うのだということをくれぐれも注意していただきたい。




【2】すその決め方について
浴衣の着姿を決める第一の関門が、裾のあわせ方である。「柳腰の和服美人」という言葉を耳にしたことは無いだろうか?そう、和服美人は腰が細いほうが有利なのである。返せば、腰を細く見せることが浴衣美人になるために重要なことなのである。
さて、腰を細く見せる為にはどうするかというと、まずは「浴衣を裾つぼまり」に着ることである。裾つぼまりに着ると、ただでさえ動きにくい浴衣が、ますます歩きにくいじゃないかと思われるかもしれないが、ここはぐっとこらえてそのようにしていただきたい。
それからもう一つ、視覚効果に気をつける、ということだ。よくファッション雑誌で「モモ張りさんに最適なパンツ」「尻でかさんに最適なパンツ」などと、ほっそり見えるためのタイプ別商品紹介なんかをやっているが、あれと同じような視覚的ごまかしが、浴衣でも必要なのである。それは何かというと「脇腺」である。浴衣を着る時に上に来る部分、つまりは左側の布地、の前と後ろの境目に縫い目というか折り目があると思う。それが脇線である。
脇線決して「体の真横よりも前に持ってきてはならない」のである。あくまで真横、かそれよりも後ろの位置に定めて、浴衣を着るようにする。なぜかというと長くなるのでやめておくが、要は視覚効果である。脇腺がからだの前の部分にあると「太って見える」のである。だから、真横或いはそれよりもやや後ろにして着るべきなのである。


で、裾つぼまりで脇線は真横かそれよりも後ろにせい、と書いたものの「じゃあ一体どうするんだ」ということになる。


普通、左側の布地を上にして着るのであれば、右側の布地を先に体に沿わせて、それから左を上に重ねるという着方をすると思う。が、浴衣はそれでは駄目なのである。そもそも浴衣というものは、洋服のように「着ればそれなりの形になる」という構造になっていない。それなりに注意して着ないと変なことになるようにできているのである。だからそもそも「常に綺麗に着ようと心がけながら」着ていく必要があるのである。
故に、浴衣を着る時はまず左の布地のほうを先に決める。「裾つぼまり」で「脇線が真横かやや後ろ」の状態を先に決めるのだ。裾つぼまりというのは、布地の端(左側の布地の場合、右足のほう)を心持ち斜めに引き上げることで実現する。つまり「脇線が真横より前に来ないようにしながら、右手で裾のはじをちょっと持ち上げた」状態を、まず鏡の前で決めるのである。「左部分に限っての完成形」を確定させるということ。
そして、その確定させた状態を崩さないようにしながら、実際には「鏡の前で決めた左側の布地がむやみに崩れないように左手できっちり引っ張り」ながらも「左側の布を合わせた状態から開いて」そしておもむろに「右側の布を体に沿わせる」のである、このとき、裾つぼまりになるように「右側の布の裾は、左側の布地の裾を心持ち上げたよりもさらに上に持ち上げる」ことが重要である。
で、「右側の布地を体に沿わせ」たら「保持しておいた左側の布を戻し、重ね合わせる」のである。

これで裾あわせ完成。

ちなみに、右側の布を合わせるときに、しっかり左手で引っ張って左側の布地の完成系の状態を保持しておかないと、「右を引っ張りすぎて脇線が極度に後ろに持っていかれてしまう」かあるいは「右側の布の合わせ方が緩んでしまい、最終的に脇線が体の前に来てしまう」という状態に陥るので注意したい。


ちなみに気をつけたいのは姿勢だ。あわせようあわせようとして、むやみに下を向いたり、姿勢が悪かったりすると、その状態で形が決まってしまうのでお尻がぽこっとでてしまったりしてみっともない。姿勢良い状態で、きっちりあわせたいところである。




【3】腰紐を結ぶ
さて、裾はあわせた。しかしこの状態でいつまでも両手で浴衣を持っているわけには行かない................ということで「紐で浴衣を固定する」という作業の登場だ。
さて、近年雑誌などで紹介されている浴衣の着方なんぞを見ると「腰紐をウエストで結びます」というのが多い。間違いではない。間違いではないのだが「より綺麗に、着崩れにくく着るのであれば」という条件を付加すれば「腰骨付近で結ぶほうが良い」と主張したい。
まず、ウエストで結ぶということは、地面からの位置が腰骨よりも高くなる。浴衣からしてみれば裾からの距離が遠くなる。裾からの距離が遠ければ遠いほど、裾あわせの安定感が遠くなる。つまり、はだけやすくなる。
それから、ウエストというのはからだの中で細い部分だ。逆に、腰骨のあたりというのは太い部分だ。細いウエストで結んでしまうと、その直後に太い腰部分が来るので、折角「裾つぼまり」に浴衣をあわせたにもかかわらず「ウエストから腰にかけて物理的に広がる」という現象が発生するので、裾つぼまりの状態を保持するのがやや難しくなるのである。
そして、ウエスト部分というのは呼吸時なども含め「出たり引っ込んだりが激しい=サイズ変化が大きい」場所であるので、たとえば呼吸するごとに紐や浴衣が引っ張られたり緩んだりするのでこれまた着崩れやすい。最後に、まあどうでもいいことではあるが、ウエストで結ぶとおなかが苦しいので飲食が困難になりやすい。
とまあ、こんな理由から、紐は腰骨の位置、つまりヒップハングな位置で結ぶのが最適である、と思う。

あとはまあ小技であるが、結び目は左足側に寄せておくほうが良い。右側は、後々布地がごたごた重なってくる部分でもたつくので、左側に結び目があるほうがお薦めである。







で、書くの疲れたんで続きは後日(笑) →コチラ http://d.hatena.ne.jp/tsubuyaki_koeda/20050718/1121755281