酔っ払いの夜歩き

酔っ払いの夜歩きは危険である。「まあ、迷っちゃったら戻ればいいし」的な豪快さが、通常の時よりも5倍増しぐらいの勢いになっている。勿論本日もご多分に漏れず、見つけた細い道をどんどん進み始めてしまう。

細い道を入ってしばらく歩いていると、向こうからやけにのんびり、しかもよろよろしながら歩いてくる佐川急便の人がいる。


こんな時間に何故佐川急便。しかも歩いてるし。ちくったろうか。
    (佐川急便は社則にてサービスマンは歩いてはいけないとあるのだ)


と、思いながらも、段々とその人との距離が近づいてくる。そして気付いた。



何だ、佐川急便風のボーダーポロシャツを着たおじいちゃんか。紛らわしい。



そして私はまたどんどん進む。すると、なんだかマンションと神社が一体化したような建物と遭遇する。どうやら、元々神社の敷地であった所にマンションを建てたものの、神社を排除するのもなんなので、そのまま神社の機能はは残しているという妙な風合いの建物。正面から見ると、現代風のコンクリート打ちっぱなしモダン建築なのに、神社の看板が付き、裏手に回ると鳥居が有って、ちゃんと神社風、そして見上げれば神社には付きものの裏山。

その裏山と、マンションの陰に隠されたように存在する鳥居が、何とも怪しげな雰囲気をかもし出していて何だかちょっと怖い感じがする。神社って、私の中では割といじってはいけない領域として分類される物なので、それに割り込んだマンションというものに不安を感じ、余計にいやな心持になる。こういうゾーンはさっさと去るに限る、と足を速めてスタスタ歩いていると、向こうからタクシーがやってきた。

私の前方にすっと止まり、ランプが「支払中」に切り替わる。運転手さんは後部座席を振り向きながらなにやらやり取りをしている様子で、そしてその後扉が開き、そして閉じた。



でも、誰も降りてこなかった。



来なかったんだってば。ドアが開いて閉じて、明らかに運転手のおっちゃんは誰かと話しているのに、その誰かがいないんだよ。そしてその後、運転手はそのまま、乗車記録を書き綴り、作業が終わるとランプを空車にして去っていった。



いや、まて、おっちゃん。今あんたの載せていた客は一体何なのさ。



やばい、これはやばい物を見てしまったとタクシーの止まっていた辺りまで歩き進むと、そこはお寺と墓だった。うーむ、私の見てしまった、いや違うか、見なかったものは一体、神社ゆかりの物か、寺ゆかりの物か、或いははたまた別物か。しかし、私は強い酔っ払いである。まあいいやとそのまま歩いた(文章を書いている今になって急に怖くなっている)。そして、道が開けて大通りに出て、さあ一体私は今どこなのか、と思ったら慶応大学のそばの道だった。ふむ、これなら幽霊坂を通って帰れば近いなと、さっき不穏なものと出合ってしまったかもしれないのに、幽霊坂に向かう。

しかし、やっぱり私は酔っ払いだった。幽霊坂だと思って登った坂の様子がどうも違う。幽霊坂は真っ直ぐだが、この坂は何故か曲がっている。うーん、私の歩いているのは一体どこなのだ、と思いつつとりあえずそのまま進んでいたら、坂の名前の表示が出てきた。



蛇坂



うーん、不穏な物やら、幽霊やら蛇やら、今日はそんな日なのかと思いつつ適当に歩いていたら、なんと近所の普連土学園の脇に出た。ああ、これでもう家に帰れる。まあ、怪しい事は寝て忘れるに限るだろう。





                                                      • -

あ、日記の文字大きくしました。