ハミガキ粉の哀愁

tsubuyaki_koeda2004-05-31

シマシマのハミガキ粉と言うものがある。誰しも一度ぐらい使ったことがあるのではないか。あれは中々美しく使いこなすのが難しい。

因みに意外に気付いていない人が多いようだが、あれはチューブの中では、チューブの太さ分のシマシマが納まっているのである。図のように。太い緩い金太郎飴のようなものである。それをチューブの後方から押すことによって、出し口の細い部分から、細いシマシマが飛び出してくるというわけだ。

しかし、歯ブラシの上に乗っかった細いシマシマハミガキ粉はなんとも言えず綺麗だが、チューブの中に収まっているぶっといシマシマは、想像するに何だか笑えて来る。そしてその状態のシマシマを見て現実に笑いたいが為に、シマシマハミガキ粉を買う度に、「今この買いたての、チューブに満ち満ちた状態で


『チューブを輪切りしたい』。


そして太いシマシマを見たい。」という欲求に駆られる。すごく駆られる。まあ、そんな事をしたら保存のしようがなくなるし、数日を経て残り全部がゴミになることは確かなので、実行に移すことは無いのだが......。

というわけで、「ハミガキ粉なぞただチューブから出さえすればいいのである」とばかりに、チューブの真中あたりを「ブニ」と押したら最後である。綺麗なシマシマで出てくることは、もう後数回の命である。使うにつれてそれはいつのまにか「白と青の混ざった水色」か或いは「白と赤の混ざったピンク」になる。ハミガキ粉の効能としては「白い部分に含まれている良い成分」と「色の部分に含まれている良い成分」を混ぜて使いたいわけだから、最初から混ざっている分には問題ないかもしれない。


が、ダメだろう。よくない。そんな奴はシマシマを使うなと私は言いたい。失礼である。


と、こんな主張をして止まない私に事件が起きた。


洗面所でこけたのである。
そして、手をついた先にシマシマはみがき粉があったのである。


 ぶ  に  。



何故か、頭の中を井伏鱒二山椒魚が巡った。
最後のクライマックスで、山椒魚に閉じ込められた蛙が言う。
「それでは、もうだめなようか」
「もう、だめのようだ」
山椒魚が答える。


事件など、一瞬なのだ。
手の下にはひしゃげたチューブ。
シマシマはもうだめのようである。
が、チューブは無言である。
彼はもう、水色のハミガキ粉になってしまった。



我が家の洗面所の青春は終わってしまったのである。